2007年04月16日

イグアナの娘(萩尾望都)文庫判

イグアナの娘
イグアナの娘



まだ全作品は読めていないけど、かなり好きな漫画家さんの一人が萩尾望都さん。
好きな漫画家ベスト1に挙げる人も少なくないのではないでしょうか。
私がもし少女の頃に、萩尾作品に出会っていたら人生変わっていたかもしれない。
(オトナになってから読んだので、今の人生は「子どもの頃萩尾望都漫画を読まなかった人生」をあゆんでいるのです)

本作「イグアナの娘」は短編集、表題作を筆頭に「現代・日本」が舞台になった漫画を集めたもの。
「現代・日本」が、萩尾作品の中では異色に見える。有名な作品の多くは、日本というより海外が舞台のものばかりで、それが萩尾作品の特徴ともいえるからだ。

絵柄も最近の絵柄なので、最近の作品を読みなれている人にとっつきやすいと思われます。
ストーリーは冒険があるわけでもなく、淡々と進むのですが、じんわりと怖いものばかり。

「イグアナの娘」は、生まれた娘がなぜか、母親とその娘本人にだけはイグアナに見えるという不幸を描いたもの。周りから見た場合と写真に写した場合は普通に(普通以上に?)かわいいのに、娘を愛せない母親と自分を愛せない娘の悲劇がコミカルに綴られます。

娘が「イグアナである自分」と、「自分を愛してくれない母親」を許し・愛せるようになるまでのお話し。切なくも着地できて良かったです、今後イグアナのリカちゃんに幸せな毎日が訪れるように願ってしまいます。


「帰ってくる子」は、事故で死んでしまった弟が、毎日家に帰ってくるように見えるおにいちゃんの話し。母親も弟がまだ生きているかのように思い出して会話するし、それを見ておにいちゃんは自分でなく弟が生きていたら……と考えてしまうようになる、切ない物語。これこそ淡々としてて、あらすじ説明もうまくいかないなぁ。

「カタルシス」は予備校通いの浪人生が、ある出来事をきっかけに自分のいままでとこれからを考え、家出を繰り返してしまう話。(だめだ、短く説明するの難しい!)

萩尾さんの作品に登場する「親」は、非常に嫌な存在であることが多い。この「カタルシス」は典型で、浪人生はすでに「反抗」ともいえないほどしごくまっとうな主張をしているのに、親が「親」という権威を振りかざしてその主張をハナから聞こうとすらしない。
親の意見も客観的に見れば間違っていないというか、親すら「子どものために」と勘違いしてしまっているが、それは押し付けでしかない意見になってしまっている。
親友の葬式にすら、勉強のためにと行く事を許可されない。
大学にいって何をするかも考えていないのに、何をするかは大学へ入ってから考えろといわれる。

親はもちろん、大人で経験も豊富だから、助言やアドバイスをするのはかまわない。そして何本もの道・選択肢を与えてやるのが役目だと思うけど、「行って見るまでもなくその道は必要ない」と封鎖されるばかりでは子どもが生きにくいだろう。

「午後の日差し」は42歳の奥様が、旦那にあきれ・家庭に疲れ、料理教室で出会った若い男にほのかな恋をする話。
若い男と逃げるチャンスさえ巡ってきたら、何もかも捨てられそうな条件が揃って来るし、若い男はまぶしいし……
でも42歳にもなると、欲しいもの・捨てられないものはひとつじゃないんだよね。なんだかいろんな方面から捨てがたいものや欲しいもの、既に手に入らないものなどが見えてくると動けない。
 この話を読むと、胸がきゅんとなってしまう。意外に切ないのだ。

「学校へ行くクスリ」これはまた、萩尾センセらしい作品だなあと勝手に思ったり。心理描写とか不条理ッぷりがたまらない。
ある日少年は目がさめたら、父さんはワープロに・母さんは電気ジャーになっていた。
その調子で、道行く人や学校の人……みんながおかしな姿に見える。
そんな中、クラスメイトで、好きなアイドルに似てるあの子だけはまともに見える。
他にも幾人かまともに見えたり、見えなくなったり、花が咲いたりしぼんだり。
混乱と、理解と、願いで少年の心が通常を取り戻していく話し。(だと思う。)

「友人K」は短いお話。コマ割が横長のみの特殊形態。
ちょっと薔薇の香りただよう、「オレ」と同級生「K」の思い出。


「イグアナの娘」はドラマにもなったよね。
DVDとか出てるよ。
イグアナの娘 The Daugther of IGUANA DVD-BOX
イグアナの娘 The Daugther of IGUANA DVD-BOX


「残酷な神が支配する」とかはドラマ化無理だもんね……
「イグアナの娘」と同じく短編の「半神」は舞台化されているらしい。
「残神」の感想・考察も書きたいけど長くなりそうで躊躇してるところ。
ラベル:萩尾望都
posted by 藤村阿智 at 15:57| Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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